前期高齢者が降圧剤を飲むと長生きできないのか?

前期高齢者

近年、高齢者が降圧剤を服用すると長生きできないと言う主張がメディアで数多く流れています。

もうすぐで70歳になる私の母も、先日このような事を言っていました。

この前、雑誌を見てたら降圧剤を服用すると脳の血液の流れが悪くなって脳梗塞が起きやすくなるって言ってたわ。
あと、ガン認知症にもなりやすくなるって書いてたのよ。
降圧剤を飲むとかえって長生きできないみたいだから飲むの止めといた方がいいのかしら。

私はこれには反対です。

高齢者と一言に言っても「前期高齢者(65~74歳)」と「後期高齢者(75歳以上)」の方がいます。今回は、高齢者の中でも、64~75歳の前期高齢者に的を絞って、その根拠を解説したいと思います。

前期高齢者は積極的に血圧を下げるべき

前期高齢者はむしろ積極的に血圧を下げるべきだと言えます。

これを説明するために、どのような時には降圧剤を中止すべきで、後期高齢者で降圧剤を服用した場合にどのような臨床試験データがあるのかを考えていきます。

降圧剤を中止すべき理由

副作用などの有害な事象が出ていないのに降圧剤の中止を検討する理由は、ただ一つのみです。

それは、期待できる余命を考えた場合、将来的な降圧剤による副作用リスクが、降圧剤を服用することによって得られる恩恵を上回った場合のみです。

ん~・・・。
ちょっと意味が分からないわ。
もう少しかみ砕いて説明してくれる?

つまり、母の年齢は70歳であることから、平均余命は19.98歳です。
(※参考 平成 28 年簡易生命表の概況

補足
平均余命はある人があと何年生きられるかと言う期待値で、平均寿命とは「0歳児の平均余命」です。従って、70歳まで生きた人の平均余命は、0歳から70歳までに死亡するリスクがないため、平均寿命よりも長くなります。

この約20年の間に以下の2点を天秤にかける訳です。

  1. 降圧剤を飲むことで起こる健康上のリスク
  2. 降圧剤を飲むことで得られる健康上の恩恵

そうすることで、飲んだ方が良いか、それとも中止すべきかの判断ができるのです。

つまり、若い人ほど、身体が健康なので降圧剤による副作用が起こる可能性が低く、平均余命が長いため降圧剤を服用することで将来的に起こり得る合併症を防げる可能性がより高くなるため、降圧剤は服用しておくべきだと言えます。

後期高齢者で降圧剤を服用した結果

後期高齢者ですら降圧剤を服用しても長生きできない訳ではないことを示した大規模な臨床試験(HYVET)があります。

これによれば、75歳よりも高齢である80歳以上の高血圧患者に対して、降圧剤を使用して血圧を150/80mmHg未満にした結果、脳卒中が30%、総死亡21%、心不全64%、心血管イベント34%の低下を示したそうです。

心血管イベントとは
心臓や全身の血管に起こった病気のことです。心筋梗塞や狭心症などが該当します。

つまり、後期高齢者であったとしても降圧剤を服用することで長生きが可能となる訳です。余命を考えて降圧剤を中止すべきだと判断されるケースはないことはないですが、末期の癌患者など余程稀なケースであることを覚えておきましょう。

前期高齢者は絶対に自己判断で降圧剤を中止すべきでない

これらのことから、健康な前期高齢者では平均余命を考えると基本的には降圧剤は中止すべきではありません。むしろ、積極的に血圧を適正範囲内で下げておくべきであることが分かります。

特殊な理由により、前期高齢者でも降圧剤を中止する場合があったとしても、それは絶対にメディアなどの情報を鵜呑みにして自己判断でなされるべきではありません。

なるほどね。
でも、降圧剤を飲むとガンや認知症にもなりやすくなるって書いてたわよ。
JIN
じゃあ、降圧剤に本当にそんな副作用があるのか見てみよう。

降圧剤で「認知症」や「ガン」を発症することがあるのか?

まず、結論を先に述べておくと、降圧剤により起こる副作用は様々なものがありますが、「認知症」や「ガン」は大目にいっても極まれな副作用です。これを確認するには、医薬品にある添付文書を見ていけば一目瞭然です。

補足
添付文書には治験の段階でどのような副作用がどのくらいの頻度で発生したのか記載されています。PDMAが公表している文書です。

降圧剤の分類には以下のようなものがあります。

  • カルシウム拮抗薬
  • ACE阻害薬
  • ARB
  • 利尿薬
  • 直接レニン阻害薬
  • β遮断薬
  • α遮断薬
  • カリウム保持性拮抗薬
  • 中枢性交感神経抑制薬
  • 血管拡張薬

しかし、これらを全部見ていくと大変なので、その中でもよく処方される以下の薬の添付文書を抽出して見ていきたいと思います。

  • カルシウム拮抗薬
  • ACE阻害薬
  • ARB
  • 利尿薬
  • β遮断薬

カルシウム拮抗薬

まず、カルシウム拮抗薬で最もよく処方される薬である「アムロジン」にどのような副作用が報告されているのか見てみましょう。

〈アムロジンの添付文書〉

アムロジン

ご覧の通り、ガンや認知症の記載はないようです。

ACE阻害薬

次に、ACE阻害薬で処方頻度が高い「エースコール」と言う薬の添付文書を見てみます。

エースコール

やはり、見当たりません。

ARB

ARBで処方頻度が高い「アジルバ」ではどうでしょうか?

アジルバ

ガンや認知症の文字は見当たらないですね。

利尿薬

利尿薬で処方頻度が高い「ラシックス」の添付文書です。

ラシックス

ないようです。

β遮断薬

β遮断薬で処方頻度が高い「メインテート」の添付文書です。

メインテート

これも見当たらないですね。

結論:降圧剤にガンや認知症の副作用は報告されていない

JIN
各薬剤の添付文書を見てきたけど、やっぱりガンや認知症の副作用は報告されていないようだね。
本当ね。
何を根拠にあんなことを言っているのかしら?

多くの記事で降圧剤による様々な副作用が取り上げられていますが、実際にはごく少数例しか報告されていないケースも多くあります。

これらの特徴は、あたかも筋が通っているような理論を展開していますが、臨床試験データなどの根拠が伴わなわず、根拠文献や副作用頻度などを記載していません。

これらの「注目を引くためだけのイカサマ記事」を一般の方でも見抜くには、その情報が信頼できるのかどうかを見極める力をつけることが重要です。

そうなのね。
最近、色んな人が色んな事を言っているから一般人は惑わされる人も多いわよね。
JIN
個人的には、「言論の自由」は大事な権利だけど、人の命の方が重要だから今の状態は行き過ぎている感じはするね。
補足
「認知症機能の低下」に関しては薬の副作用として報告はありませんが、極端な低血圧でリスクが高まることはあります。脳への血流量が低下することで、血液とともに栄養や酸素が行き届かなくなり、脳の働きが悪くなると言う理論です。
しかし、認知症は低血圧だけで起こることではありません。
高血圧でも認知症になりやすくなることが分かっています。
このため、認知症を予防したいのであれば、血圧は適正範囲でコントロールすべきです。

血圧を低下させて良かった実体験

高血圧で起こることは、重大な合併症だけではありません。肩こり頭痛めまいなどの症状が出る場合もあります。高血圧が原因でこのような症状が出ている場合は、血圧を下げることにより改善することが期待できます。

前期高齢者の母に降圧剤追加により血圧を正常範囲でコントロールさせた結果

上記の話をした際に次いでに母の血圧を聞いたところ、毎日測ってはいないものの早朝で平均155/95mmHg、就寝前で150/90mmHgくらい血圧があるとのことでした。

私はそれを聞いてビックリしましたが、母に血圧手帳を1カ月間記録してかかりつけの医師に提示するように伝えました。

すると、次回の診察日に「降圧剤を追加する」と言うことになり、現時点では血圧も安定しており、起床時も就寝前も140/85mmHgくらいまで下がっています。

血圧を下げることで、心筋梗塞や脳卒中と言ったリスクの高い合併症を予防できることは前述した通りですが、母の場合は更に予期せぬ効果もありました。

不思議なくらいなんだけど、月に10回くらいは軽い頭痛があったのがなくなったのよね。

私自身が生活習慣の見直しで肩こりが改善した話

実は、私自身も以前は血圧が高めでした。正常範囲ではあるものの128/80mmHgくらいありました。

しかし、34日間かけて113/68mmHgまで下げたことがあります。
(関連記事 ヘルケアの効果と評価~エーザイの血圧トクホ~

現状でもそのくらいの血圧で維持しているのですが、明らかに肩こりが起こりにくくなっているのです。

意識しないと分からなかったかもしれませんが、血圧が高い時と下がった後を比べると確実に違いがあります。

前期高齢者が降圧剤を服用する際に注意すべきこと

これまで前期高齢者でも積極的に血圧を適正範囲でコントロールすべきと書いてきましたが、高齢者では若年者に比べて血圧の下げ過ぎによるリスクが高いことも事実です。

これは、生理機能の低下に合わせて対策することが重要です。

前期高齢者が降圧剤を服用する際に注意すべきことは以下の3つです。

  1. 肝機能・腎機能の低下
  2. 転倒による骨折の恐れ
  3. 過度の減塩や脱水により低血圧の恐れ

前期高齢者が降圧剤を服用する時の注意点①肝機能・腎機能の低下

高齢者では、肝機能腎機能などが低下していることが少なくありません。

お薬の効果が切れるのは主に、肝臓で代謝(肝代謝)されるか、腎臓から尿として排泄(腎排泄)されるかのどちらかです。
(薬剤の種類により、肝代謝型か、腎消失型かのタイプが異なります。効果・効能が同じであっても、この消失経路のタイプが異なることがあります。自身の服用している薬剤がどちらなのか気になる場合は、かかりつけの医師や薬剤師に相談するようにしてみて下さい。)

例えば、肝機能が低下している方が、肝代謝型の薬を健常者と同量を摂取すると、薬の代謝が遅れるためより身体に残る時間が長くなり、健常者よりも副作用が出現しやすくなります。このため、肝機能が低下している方が肝代謝型の薬を服用する場合は服用量を減量しなければいけないことがあります。
(薬剤には様々な特性があるため、必ずしも減量しなければいけない訳ではありません。)

つまり、高齢者は肝機能や腎機能が低下しやすいから、若い人よりも薬の量を減らして服用しなければいけないってこと?
JIN
その通り(^^)

ただ、高齢者と一括りに言っても、肝機能や腎機能は個人差があります。高齢者では必ず肝機能・腎機能が低下していると言う訳でもありませんし、中には減量せずに使用するケースも多くあります。

肝機能や腎機能が正常かどうかなんて、どうすれば分かるの?

肝機能に関しては、血液検査でALT(GPT)、AST(GOP)、γーGPTなどの項目で、腎機能に関しては、尿検査で尿たんぱくを見たり、血液検査でBUNやeGFRなどの項目をみることで推測ができます。分からない場合は、遠慮せずかかりつけの医師や薬剤師に確認してみましょう。

前期高齢者が降圧剤を服用する時の注意点②転倒による骨折の恐れ

高血圧症の薬が効きすぎて低血圧になると、ふらつきがでやすくなり、転倒による骨折が起こりやすくなります。

低血圧のふらつきで骨折ってちょっとオーバーじゃない?
JIN
いやいや、これも良くあることなんだよ。
特に、高齢者は骨密度も低下している事が多いし、軽い打撲でも、骨折に繋がりやすいので要注意だよ。

薬を飲み始めてふらつきが出やすくなった場合にはかかりつけの医師に相談しましょう。

低血圧によるふらつきがなかったとしても、元々めまいや足のしびれ等がある場合には、転倒のリスクがあります。このような場合には、軽い低血圧でも転倒のリスクが高まるため、かかりつけの医師には伝えておくようにして下さい。

前期高齢者が降圧剤を服用する時の注意点③過度の減塩や脱水により低血圧の恐れ

減塩で血圧は下がりやすくなります。さらに、体内に水分が不足している状態である「脱水」があると降圧剤の効果は増強され、低血圧が起こりやすくなります。

脱水状態で薬を服用すると効果や副作用が強まるの!?
これは夏場や運動後などは要注意ね。
JIN
脱水は風邪を引いた時の下痢嘔吐などでも起こりやすくなるからね。

高齢者は、過度な減塩は避け、減塩をする場合は徐々に行い、脱水が起きないようにこまめに水分補給をするようにしましょう。

ただし、心不全患者等では、水分摂取について医師から制限されている場合もありますので、そのような場合は医師の指示に従って下さい。

「医師と製薬会社の癒着で降圧剤が処方されている」は本当か?

最後に、おそらく多くの一般の方が気になる話題について少しだけ触れておこうと思います。

「医師と製薬会社の癒着はあるのか?」

もし、上記の質問をされれば、私は「YES」と答えます。

近年はかなり少なくなりましたが、長年「製薬会社の医師への接待」は浮世離れしたものでした。「高級料亭で医師と食事する」と言うのは、ある製薬会社の就職説明会で堂々と話されていた内容ですし、ある知人の医師は「製薬会社の接待でハワイ旅行に行ったことがある」と言っていました。

私が薬局で高額な薬を調剤すると決まって、数日後に製薬会社の営業担当が来て「先生にお礼がしたいので、どこの病院の先生か教えてくれませんか?」と言ってくるのもあからさまですね。

そんな製薬会社ばっかりだったら、治験データをお医者さんと共同でごまかしちゃうこともあるんじゃない?
JIN
ノバルティスファーマの元社員が降圧剤の臨床研究データを改ざんした「ディオバン事件」は記憶に新しいね。
製薬会社が臨床試験データをごまかして「良い薬」に見せかけてるんだったら、今まで話していた内容も信頼できなくなるんじゃない?

私の母のような考え方が世の中に非常に多くあります。このような事実がないとは思いませんし、このような意見を真っ向から否定するつもりは毛頭ありません。

私自身も「多少は」あると思います。

しかし、それは世界で数多く行われている臨床試験データを根底から否定するまでには到底至らないと言うのが私の主張です。

仮に、「ディオバン事件」を例に挙げたとしても、ディオバンの臨床試験データは多少捏造されていたかもしれませんが、その事件をきっかけにディオバンを処方されていた方が他の類似薬に変更になったのかと言うとそうではありません。

ディオバンで血圧コントロールが良好である方は、その事件後もディオバンを服用している方が多いです。これは、ディオバンに降圧効果がしっかりあり、選ばれる薬剤であるからなのです。

なので、表面上に出てきていない臨床試験データのごまかしは多少あると思いますが、その影響は微々たるものであり、それらを考慮したとしても大きな治療方針が変更されることはないと考えます。

ニュースで大きく話題となると心配になってしまう方も多いかと思いますが、冷静に考えて行動するようにして下さい。

自己判断で降圧剤を中止して重大な合併症が出たとしても、メディアは責任をとることはありません。全て自己責任となることを忘れないようにして下さい。

まとめ

「前期高齢者が降圧剤を飲むと長生きできない」と言うのは、嘘です。後期高齢者ですら、大規模な臨床試験で長生きできると言う画期的な結果が出ています。

特殊なケースで前期高齢者で降圧剤を中止すべきだと判断される場合も中にはありますが、これは医師が判断すべきことであり、自己判断で降圧剤の服用を中止するようなことは絶対にしないで下さい。

高齢者では、肝機能や腎機能が低下しており薬の効果や副作用が強くなりやすくなるため、検査値は自身でも気に留めるようにしましょう。

「転倒による骨折」や「過度な減塩や脱水による低血圧」に十分注意して生活しましょう。

 

以上、「前期高齢者が降圧剤を飲むと長生きできないのか?」でした。

記事を書き続けれるのはあなたのクリックのおかげです(^^♪


下のバナーをクリック!
にほんブログ村 病気ブログ 高血圧症へ
にほんブログ村
こちらもお願いします!

高血圧症ランキング


バナーをクリック応援よろしくお願いします^^

前期高齢者

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

two × five =